【産業医にできること】麻疹風疹の予防、職場で実施してみません?(2)【実践】

産業医のみなさん、こんにちは。カナダで隠居中のカステラ@Rainha_Castella です。今日も安全な場所から匿名でテキトーなことを呟いております。麻疹風疹の予防、職場で実施してみません?第2回目の今回は現実的に実行可能な実践編です。

職場での麻疹・風疹・流行性耳下腺炎予防提案がなんとか採用され、なんかやろう! ってなったとしても、実践にうつすまでの道のりは意外に険しい…。そう言うわけで、今回は、実践を(ゆるく)サポート!

あと、全日空はもっと褒め称えられて欲しい。

前回の復習はコチラ ↓

【産業医にできること】麻疹風疹の予防、職場で実施してみません?(1)【提案】

「ちょっとだけマシ」を目指そう!

できれば、全日空みたいに、ビシィっと従業員全員を麻疹・風疹(さらには流行性耳下腺炎)から守りたい! と、お考えの産業医の先生はとても多いでしょう。経済的体力のある企業にお勤めの力量ある先生方なら、既にそういうことまで実践されてるかもしれません。

けれども、大多数の先生は、理想と実際にできることのギャップに苦しんでいることが殆どなのではないかしら? と思います。しつこいけど、従業員は健康になるために会社に来ているわけではありませんし、それが分かってるからこそ大変よね。

そいうわけで、完璧は目指しちゃダメ。ちょっとだけマシ・やらないよりマシを目指しましょう。

いきなりまとめ

あまりにも長文になってしまったので、先にまとめます。

  • 職域での予防の重要性についての情報提供は、ブレず諦めずに続ける。でも、企業の協力も従業員の希望のない時には実地はゴリ推ししない
    情報源まとめ
    厚生労働省>風しんの追加的対策について
    峰宗太郎先生の「ワクチンの情報のあるサイトまとめ」
  • 抗体検査は定期健康診断と同時に行ってもかまわないが、法定外項目として扱うのか福利厚生事業として行うのか、どちらがいいのか確認検討しておく。できれば他社産業医や産業保健支援センター中の人の意見も聞く
  • 個人的に、抗体検査は健康保険組合が実施する福利厚生事業健康診断として、希望者だけに定期健康診断のタイミングで行う…のが無難と思っている(日和ってゴメン)
  • ワクチンは、上述の「福利厚生事業」としての抗体検査に基づき、必要な人は就業中に接種できるよう仕組みを整える…のが無難と思っている(企業内で行うかどうかは、状況による)
  • ただし、病院・老人介護施設・保育所・空港など、感染リスクの高い職場では、やらないことがリスクになる…ので、「定期健康診断の法定外項目として」行いたい

それから、保険にはちゃんと入っておきましょう。以下、広告❤️をぺたり。医師賠償責任保険は、産業医業務に関連する案件もカバーされますよ。民間医局から入れば20%割引。



ちょっとマシを目指す実践ヒント集

職域での麻疹風疹予防ヒント1:せめてクーポン利用の風疹抗体検査だけでも!

2019年4月1日から2022年3月31日までの間に限り、昭和37年4月2日から昭和54年4月1日までの間に生まれた男性が風疹の定期予防接種の対象者として追加されました。

これに伴い、昭和37年4月2日から昭和54年4月1日の間に生まれた対象男性に、各自治体より、抗体検査無料クーポンが配られています。またこの抗体検査で抗体価が低い場合には、無料で風疹の予防接種がうけられます。

詳しくはこちらをご覧ください:厚生労働省>風しんの追加的対策について

そして、この抗体検査無料クーポン、職域の定期健康診断のタイミングでも使えます。ただ、注意点は、対象者がクーポン券を利用して抗体検査を受けられるのは、「厚生労働省の風疹抗体検査事業に参加している健診機関に限られるって点。厚生労働省のリストを各自ご確認ください。

 

注意
抗体検査は定期健康診断と同時に行っても構わないけど、定期健康診断の法定外項目として組み込むのか、福利厚生の一環として行うのかは、キッチリ線引きしておきましょう。後の対応が異なります。

以下、プッシュ道具。

女王様
えっ? 風疹だけ? とか
えっ? 昭和37年4月2日〜昭和54年4月1日生まれの男性だけ? とか
えっ? 決められた健診機関じゃないとダメなの? とか
思うところは色々あるでしょうけど、クーポン利用できる人だけでも風疹の抗体検査を定期健康診断に組み入れるのは大きい一歩。

せっかく厚労省がんばってくれてるので、存在するものは利用しちゃえ!
存在するもの=お墨付き=行政の後押しがあるという解釈で概ね合ってます。

職域での麻疹風疹予防ヒント2:クーポン利用対象者に麻疹抗体検査を加えてみる

もし、職場にゆとりがあったら可能だったらクーポン対象者の風疹抗体検査に加えて、麻疹の抗体検査もしてしまいましょう。

ただし! 麻疹抗体検査を加えることで、風疹クーポン利用できなくなっちゃう可能性も(自治体によっては)あるので、そこのところはよく調べてね。ほとんどのケースで差額分の出費で済むはず…なんですけどね。

わかります、本当は全員したいよね、麻疹もしたいよね、ほんっとにわかります。でも、「やらないよりはマシ」を目指して無理しない、無理させない!

職域での麻疹風疹予防ヒント3:可能であれば全員に麻疹風疹抗体検査を…(震え声)

多くは語るまい。全日空ばりにやってくれたらホント嬉しいコレ。
嬉しくて嬉しくて震える…。

職域での麻疹風疹予防ヒント4:必要な人には、ワクチン受診勧奨できれば理想だけど無理しない!

ワクチン接種を職域で! ここまでできたら理想ですよね。
でも、ワクチンを職場でうつのって、簡単ではないので、ココでは、ワクチン受診勧奨までに留めておきました。あと、全日空はもっと褒め称えられるべき!

無理しない理由1:厚生労働省のリストにある医療機関でないと、クーポン対象者でも無料にならない

風疹クーポン対象者は風疹ワクチン無料でうけられますが、厚生労働省のリストにある医療機関じゃないと無料になりません。で、職場は医療機関ではないので、そもそもリストに載っているはずがありません

さらにMRやMMRなどで、麻疹や流行性耳下腺炎の予防接種を同時にうけると、風疹分の補助まで出なくなることがあります(大抵は差額分だけ払えばいいことが多いけど、ちゃんと調べてね)。

無理しない理由2:クーポン使わなくても、職域でワクチン接種は(通常)できない

産業医が職域でワクチン接種するのは、原則、(阿呆らしいと思うけど)ダメ。クーポン使わなくてもダメです。

(本当に阿呆らしいと思うけど)事業場(会社)は,医療提供施設ではないので、予防接種等の医療行為をしちゃダメなんですね。抜け道がないわけじゃ…げふんげふん、ダメです。

職場に診療所がある場合は予防接種できます(多くの場合クーポン使えないけど、自治体によってちがうのでちゃんと自分で確認してね)、開業医もなさってる産業医の先生が自分の診療所で予防接種するのはグレーゾーン的OK(多くの場合クーポン使えないけど、自治体によってちがうのでちゃんと自分で確認してね)。

なお、自分で依頼に行ったことがないのでわかりませんが、ある程度人数が集まれば、厚生労働省のリストにある健診会社や医療機関の中には職場まで出張してきてくれてワクチンうってくれるところもあり、そういうところでなら「クーポン利用で職場で」できるかもしれません

どおおおおおしても、自分とこの従業員に自分で予防接種したかったら、厚生労働省のリストにある医療機関で「予防接種するアルバイト医」として、自分の産業医先に赴くという方法もありますけど、私はそこまでやらない。

職域でのワクチン接種は無理しない理由3:世の中にはいろんな人がいる

これ書こうかどうか迷ったんだけど、勇気出して書く、えいっ。

世の中にはワクチンにどうしても賛成できない人がいます。なぜか知識も教養もあるのに、ワクチンは有害と思っている人が時々いるのです。で、そういう人の声は大きいし、なぜかそういう人に限ってインフルエンサーだったりすることもある。

世の中に色々な人がいる以上、企業内でワクチン接種をゴリ押しすることに躊躇する経営者がいても無理はありません。特に、国の後押し以上のことを企業が行うのは、しばしばリスクを伴います。

逆に、病院・老人介護施設・保育所・空港など、感染リスクの高い職場では、やらないことがリスクというか、ハザードそのものにもなります。産業医たるもの、そこらへんのバランスは考えて!

職域での麻疹風疹予防ヒント0:どれも無理なら、情報の提供を!

頑張って行った提案が、ことごとく受け入れてもらえなくてもできることがあります。でも、それでもできるのが、情報の提供です。

情報収拾の段階で挫折する人は本当に多いので、ココをサポートするだけでも、職域での麻疹・風疹・流行性耳下腺炎の予防には役立ちます。

前回の(1)でご紹介したどろっぽ医先生の「風疹の予防接種をしてみた②」をもう一度読んでみましょう。読めば読むほど、こんなに面倒なことをやらなきゃいけないの? って気分になりません? 風疹だけでコレだよ。
以下抜粋。

とりあえず僕が伝えたいのは

こんなに面倒じゃ、浸透するわけない!!!!ということ。

 

では手順です。

①保健所のホームページから「風疹予防接種(あるいは抗体価測定)依頼書交付申請書」をダウンロード
記入の上、FAXまたはメールで問い合わせ先へ送付する。※捺印が必要

②市から「風疹予防接種(あるいは抗体価測定)依頼書」が交付される。

医療機関に予約の電話をしたうえで、「依頼書」をもって受診。
予防接種を受け、いったん自己負担

④領収書、通帳、印鑑をもって保健所に出向き、助成分を受け取る手続きをする

数か月後に返還される

出典:どろっぽ医の徒然日記, 風疹の予防接種をしてみた②

コレを従業員一人ひとりが休み時間や休日使って個別に行うのは時間の無駄だし。読めば読むほど情報収拾の段階で挫折する人は本当に多いの、わかるでしょう?

平成30年10月2日付で、厚生労働省から都道府県労働局労働基準部長宛て、「職域における風しん対策について(協力依頼)」の依頼書とリーフレットも出されてますし、情報提供だけでも大きな一歩! 提案が撥ね付けられてもくじけないでー!

実践前・実践中に意識しておくとよいこと

提案する前にも下調べは大事ですが、実践前にも実践中にも意識しておいた方がいいことを挙げます。

何のためにやるのか、どんないいことがあるのか

何のためにやるのか、企業や従業員にとって、どんないいことがあるのかは常に意識する必要があります。

  • 労働者の健康管理
  • 生産性の向上
  • 企業イメージ低下のリスク回避
  • あまり知られてないけど経済産業省の健康経営銘柄としてリストにのる(評価項目に麻疹風疹抗体検査の実地、予防接種の費用補助などがあります)

詳しくは前回の記事を参考にしてね ↓

【産業医にできること】麻疹風疹の予防、職場で実施してみません?(1)【提案】

“安全配慮義務”と”説明と同意”と”適正配置”と”守秘義務”

これら4つは、猛烈に意識しておきましょう。これはそっくりそのまま、職域で抗体価を測定するのが簡単でないのは何故か、予防接種は無理しないのは何故かの理由にもなります。もっと全日空は褒め称えられていいと思うの! ←しつこい

そして、中堅産業医くらいまでのうちは、社内社外の他の産業医や、産業保健支援センターの中の人にも相談するのが吉です。っていうか、観察してると分かると思いますが、重鎮的産業医って、相談上手だから、重鎮なのよ。

安全配慮義務

ご存知とは思いますが、労働安全衛生法に基づいて行われる一般定期健康診断は、福利厚生のためではありません(そういう側面があることは否めませんが)。もともとは、 安全配慮義務を実行するための「適正配置・就業措置」が目的です。企業主体で健康診断したら、その結果に基づく事後措置までが事業者(企業)に求められていることをお忘れなく。

本来、法令(労働安全衛生規則第44条)で決まっている一般定期健康診断(法定項目)は、「働らかせていいのか」「働かせちゃダメなのか」「働らかせていいとして、何か配慮がいるか」に関して判断するためのもの。だから、この部分については、企業が知る必要が(産業医が企業に知らせる必要が)あるわけですね。

注意しておきたいのが、企業主体で健康診断を行い、従業員の健康情報を入手した場合、法定外項目であっても、その内容に応じた安全配慮義務が生じる点。例えば、抗体検査によって麻疹の免疫を持たないことがわかっている小児科医を麻疹感染リスクの高い外来業務に就かせて麻疹に感染し重症化した場合、感染のリスクの低い業務に配置しなかったという不備についての民事責任を問われかねません。

そういうわけで、私が産業医として行うのなら、感染リスクの低い職場では、予防接種だけでなく抗体価の検査も(定期健康診断の枠組ではなく)健康保険組合が実施する福利厚生事業として行う形にするかと思います。最終的に何かあれば、責任を問われるでしょうけど、福利厚生事業として行うと、会社が結果を知りようがないので検査もワクチンも本人希望ベースとなり…げふんげふん

逆に、病院・老人介護施設・保育所・空港など、感染リスクの高い職場では、やらないことがリスクになりうるので、企業として行うのが吉と判断します。要するに「どっちがマシなのかよく考える」のが大事です。

説明と同意

法令で規定されていない項目(法定外項目)について企業が施行し、その結果を安全配慮義務の遂行に利用するには、「利用目的の説明通知」および「労働者からの同意取得」が必要になります。つまり、

  1. 利用目的の説明通知をする:麻疹風疹(流行性耳下腺炎)の抗体価を調べ抗体価が十分でない場合は、ワクチン接種に繋げ、これらの疾病の流行を防ぐことを知らせ
  2. 労働者の同意取得する:上を説明通知の上、同意を取る

これらの手続きが必要です。

福利厚生として行う場合は、そもそも抗体価検査は希望者のみになりますので、無理強いしないことだけ気をつければ、(たぶん)大丈夫。

適正配置

安全配慮義務とも関連しますが、健診の法定外項目に基づいての適正配置が簡単じゃないんですよ、泣ける。

法令上、企業で検診する場合、健康診断結果(法定外項目であっても)に基づく適正配置が求められていますが、「コレお願いします」で雇った従業員の「コレ」以外の職務への適正配置ってどうですか? 例えば、保育士として採用された人を、麻疹風疹抗体価が高くなるまでの間、子供と接することが少ない別の部署に配置…する?…のはとても難しいでしょう?

さらに、ワクチン接種を希望しない人に対して、どこまで強く「ワクチンうってね」と指示していいのか判断は難しい。快くワクチン接種してくれた場合でも免疫を獲得するまで待機せた方がいいのかその場合の給与はどうするの?などの判断も難しい。

ね? どう考えても大変そうでしょ? 私は抗体価低い人は、十分な免疫を獲得するまで感染リスクの高いフロントラインに出さない派なので、抗体価の低い人が自分の会社に想定以上にたくさんいたら…と考えると頭痛いです。

なお、健康保険組合が実施する福利厚生事業で抗体価が低いことが分かった場合も、本人より「抗体低かった!」とお知らせがあれば適正配置は行ってください。

守秘義務

麻疹風疹(+流行性耳下腺炎)の抗体価を測定して低い人は、感染リスクの高い職場に出さない…と決めた場合、或る日突然職場が変えられてしまう! こともありうるわけです。つまり、検査結果は出さなくても、職場のみなさんに「ああ、あの人、免疫が十分獲得できてなかったのかな?」というのが丸わかりです。

さらに、当該従業員がワクチンをうつのがどうしても気が進まない場合、どうするのがいいのか、そこまで考えておかなくてはなりません。

で、最初に戻りますが、コレを踏まえた上で、ANAはやったんですよ。もっと褒め称えてもよくない?

まとめ:じゃあどうするの?

冒頭にも書いたように、私は麻疹風疹伝染性耳下腺炎の職域での予防を積極的に行うことに賛成です。しかし、「予防接種についても、事業者(企業)の責任で実施を義務化すべき」という意見には反対です。義務化させたいのなら、その責任は企業ではなく、行政が持つべきでしょう。

正直、守秘義務を守りながら、適正配置って大変な負担です。ホントは予防接種は自治体主導でがっつんがっつんやって欲しいし、企業はそれに「協力する」くらいで丁度いいのではないかとすら思っています。

そういうわけで、私ならどうするかまとめ。

  • 企業の協力も従業員の希望のない時にはゴリ推ししない。ただし、職域での予防の重要性についての情報提供は、ブレず諦めずに続ける
    情報源まとめ
    厚生労働省>風しんの追加的対策について
    峰宗太郎先生の「ワクチンの情報のあるサイトまとめ」
  • 抗体検査は定期健康診断と同時に行ってもかまわないが、法定外項目として扱うのか福利厚生事業として行うのか、どちらがいいのか確認検討しておく。できれば他社産業医や産業保健支援センター中の人の意見も聞く
  • 個人的に、抗体検査は健康保険組合が実施する福利厚生事業健康診断として、希望者だけに定期健康診断のタイミングで行う…のが無難と思っている(日和ってゴメン)
  • ワクチンは、上述の「福利厚生事業」としての抗体検査に基づき、必要な人は就業中に接種できるよう仕組みを整える…のが無難と思っている(企業内で行うかどうかは、状況による)
  • ただし、病院・老人介護施設・保育所・空港など、感染リスクの高い職場では、やらないことがリスクになる…ので、「定期健康診断の法定外項目として」行いたい

それから、保険にはちゃんと入っておきましょう。以下、お約束の広告です❤️



 

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